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東京地方裁判所 平成11年(ワ)18410号 判決 2000年10月04日

原告

藤山洋一

被告

川﨑あゆみ

主文

一  被告は、原告に対し、金三六九〇万六七九六円及びこれに対する平成六年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金五五〇〇万円及びこれに対する平成六年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の運転車両がセンターラインをオーバーして走行し、対向する原告の運転車両と正面衝突した交通事故について、原告が被告に対し、被告車両の運転者として民法七〇九条に基づき、また、被告車両の保有者として自賠法三条に基づき、損害賠償を求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠を掲げた事実以外は争いがない。)

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 発生日時 平成六年七月三一日午後九時四五分ころ

(二) 事故現場 福岡県遠賀郡岡垣町大字野間一五番地の一岡垣トンネル内

(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車

(四) 被害車両 原告運転の普通乗用自動車

(五) 事故態様 被告車両のセンターラインオーバーにより原告車両と正面衝突した。

2  責任原因

被告は、運転操作を誤り、センターラインを越えて走行し、原告車両に衝突した過失があるから、民法七〇九条に基づき、また、被告は運転していた車両の保有者であるから、自賠法三条に基づき、原告の損害を賠償すべき義務がある。

3  結果

(一) 傷害

右大腿骨骨幹部骨折、同部遷延治癒骨折、左大腿骨遠位端開放骨折、左第二、三肋骨骨折、前十字靱帯不全損傷、肥原性瘢痕(左膝関節部、右大腿部)、前額部裂創、全身打撲

(二) 後遺症の内容、程度(自動車損害賠償責任保険における後遺障害の等級認定)

骨盤骨の変形傷害 一二級五号

顔面部醜状障害 一二級一三号

右下肢二センチ短縮 一三級四号

左膝関節痛の神経症状 一四級一〇号

右下肢、左下肢醜状障害 一四級五号

以上併合一一級

4  既払金

本件交通事故に基づく損害賠償として、原告に四六六万四一二九円が支払われた(原告が明らかに争わない)。

二  争点

争点は、逸失利益及び慰謝料を中心とした原告の損害額であり、原告及び被告の主張は次のとおりである。

1  入院諸雑費

(一) 原告 二九万二五〇〇円

入院二二五日 一日一三〇〇円

(二) 被告 二二万五〇〇〇円

入院二二五日 一日一〇〇〇円

2  入院付添費

(一) 原告 一三五万〇〇〇〇円

入院中、母(平成六年一〇月二〇日から同年一一月四日までは福岡の知人梶原麗子、同節子が付き添った。)、妹が付き添った。

入院二二五日 一日六〇〇〇円

(二) 被告 九万〇〇〇〇円

最初の一か月間に限り、付添の必要性を認める。

入院三〇日間 一日三〇〇〇円

3  通院付添費

(一) 原告 七一万四〇〇〇円

通院一一九日 一日六〇〇〇円

(二) 被告 九万〇〇〇〇円

最初の一か月間に限り、付添の必要性を認める。

通院三〇日間 一日三〇〇〇円

4  医師等謝礼

(一) 原告 五五万〇〇〇〇円

(二) 被告 〇円

5  家族交通費

(一) 原告 六九万六七三九円

(二) 被告 一二万九〇〇〇円

6  旅行キャンセル代

(一) 原告 一二万〇〇〇〇円

(二) 被告 三万〇〇〇〇円

7  アパート賃借料

(一) 原告 六二万〇〇〇〇円

(二) 被告 一三万二〇〇〇円

8  車搬送料及び高速料金等

(一) 原告 二〇万六五一〇円

(二) 被告 〇円

9  復学のため大学との話し合いのための交通費

(一) 原告 一八万二〇〇〇円

(二) 被告 〇円

10  卒業遅れによる逸失利益

(一) 原告 三二八万八八〇〇円

(二) 被告 二一一万〇〇〇〇円

11  後遺症逸失利益

(一) 原告 四一四七万二〇七七円

賃金センサス第三巻第四表医師(男)の平均賃金は一一九九万〇一〇〇円であり、労働能力喪失率は二〇パーセント、七〇歳まで就労可能であるから、労働能力喪失期間は四一年で、これに対応するライプニッツ係数一七・二九四三により算定するのが相当である。

(二) 被告 八五八万五三一〇円

賃金センサス第三巻第四表医師(男)二五歳から二九歳までの平均賃金は七〇〇万五九〇〇円であり、労働能力喪失率については、原告の後遺症のうち、骨盤骨の変形障害、顔面部醜状障害及び右下肢、左下肢醜状障害については、労働能力に支障を来さないから、労働能力喪失率は九パーセント、労働能力喪失期間は二〇年で、これに対応するホフマン係数一三・六一六により算定するのが相当である。

12  慰謝料

(一) 傷害慰謝料

(1) 原告 三〇〇万〇〇〇〇円

(2) 被告 二五〇万〇〇〇〇円

(二) 後遺症慰謝料

(1) 原告 三九〇万〇〇〇〇円

(2) 被告 三五〇万〇〇〇〇円

13  弁護士費用

(一) 原告 四〇〇万〇〇〇〇円

(二) 被告 〇円

第三争点に対する判断

一  原告の損害額

1  入院諸雑費 二九万二五〇〇円

入院諸雑費につき、一日あたりの額につき争いがある。入院中、一般的に必要とされる日用品雑貨費、栄養補給費、文化費等の額に鑑み、原告主張のとおり一日あたり一三〇〇円が相当である。

(計算式)

1,300×225=292,500

2  入院付添費 三七万二〇〇〇円

前記第二一3記載の事実(結果)及び平成六年八月五日と同年二六日に手術が行われていること(甲三)を考慮すると、医師の指示によるものではあるかは明確でないが、入院した同年七月三一日から同年九月三〇日までの六日間につき、一名の付添看護については相当性が認められる。一日あたりの付添費については、近親者による付添であることを考慮すれば、一日あたり六〇〇〇円が相当である。

(計算式)

6,000×62=372,000

3  通院付添費 〇円

原告が通院付添費を請求する医療法人慶友会慶友整形外科病院は、群馬県館林市にあり(甲四)、原告の自宅が東京にある(甲一二、一六の一)にも関わらず、群馬県館林市まで通院したのはもっぱら原告の事情によるものと考えられるので通院付添費を認めることはできない。

4  家族交通費 二八万五二〇〇円

(一) 航空券 小計 二四万五六〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告の父母あわせて、東京と福岡間四往復分一七万八四〇〇円、原告の妹につき、東京と福岡間二往復分六万七二〇〇円を認めるのが相当である。

(二) その他 小計 三万九六〇〇円

タクシー、バス代については、その必要性及び金額が必ずしも明確ではない。前記第二の一記載の事実及び証拠(甲一一)により、福岡空港と原告の下宿間につき六往復分合計三万九六〇〇円のタクシー代につき相当性を認める。

5  医師への謝礼 三〇万〇〇〇〇円

社会通念上相当な範囲の医師への謝礼として、合計三〇万円を認める。

6  旅行キャンセル代 一二万〇〇〇〇円

前記第二の一3(結果)に記載した原告の負傷状況に鑑みれば、家族四人のキャンセルは相当であり、原告主張のとおりの損害が認められる。

7  アパート賃借料 二四万五〇〇〇円

原告の負傷により、アパート賃貸借契約を解除し、新たに契約を締結する場合の敷金・礼金として一か月あたり四万九〇〇〇円として合計五か月分につき相当性を認める。

8  車搬送料及び高速料金等 四七〇〇円

事故がなかった場合に、原告の車両を福岡から東京に搬送する必要がなかったという点につき証明がないし、右3認定のように群馬県館林市までの通院については相当性が認められない。よって、原告の下宿から福岡空港までのタクシー代三三〇〇円及び羽田空港に原告を迎えに行き、東京の自宅まで送り届けるための高速料金往復一四〇〇円につき相当性を認める。

9  復学のための大学との話し合いのための交通費 一〇万五〇〇〇円

証拠(甲一一、一八)及び弁論の全趣旨によれば、復学のための話し合いのための交通費としては、原告につき東京と福岡間一往復と片道一回分合計六万三〇〇〇円、父母いずれかにつき一往復分四万二〇〇〇円の範囲で相当性を認める。

10  卒業遅れの逸失利益 二五三万二〇〇〇円

平成一〇年賃金センサス(甲一九)によれば、医師の初任給は月給二一万一〇〇〇円であることが認められる。よって、原告が一年間卒業することが遅れ、得られなかった収入として、二一万一〇〇〇円の一年分である二五三万二〇〇〇円につき相当性を認める。

11  後遺症逸失利益 二八三一万四五二五円

本件において、前記第二の一3(二)(後遺症の内容、程度)で記載した原告に生じた後遺症のうち、顔面部醜状障害、右下肢、左下肢醜状障害については、労働能力の喪失に影響を与える点につき、これを具体的に認定するに足る資料はない。

骨盤骨の変形障害、右下肢二センチ短縮、左膝関節痛の神経症状の後遺障害については、現段階で収入の減少に結びついていることの証明はない。しかし、健常状態での収入を維持するために相当な努力を用いていること(原告本人尋問)、必ずしも将来において健常状態と同等の収入を得られる保障はないこと、右各後遺障害ことに骨盤骨の変形障害、右下肢二センチ短縮による労働能力喪失の影響が一定の期間で残存しなくなるとは断定できないことなどから、六七歳まで一四パーセントの割合による労働能力の喪失を認めるのが相当である。

したがって、これらを前提に原告の逸失利益を計算すると、基礎収入を平成一〇年賃金センサスの企業規模計医師の全年齢平均賃金を上回らない原告の主張額である一一九九万〇一〇〇円とし、原告の労働可能期間(三八年間)につき、ライプニッツ方式(係数一六・八六七八)により中間利息を控除した、二八三一万四五二五円(一円未満切り捨て)となる。

(計算式)

11,990,100×0.14×16.8678=28,314,525

12  慰謝料 六六〇万〇〇〇〇円

前記第二の一(前提となる事実)で認定した本件事故の態様、原告が被った傷害、後遺症の程度等の本件に現われた一切の事情を総合すると、慰謝料としては、六六〇万円を相当と認める。

13  弁護士費用 二四〇万〇〇〇〇円

審理の経過、認容額などの事情を総合すれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、二四〇万円を相当と認める。

二  結論

以上によれば、原告の請求は、不法行為に基づく損害金として、三六九〇万六七九六円及びこれに対する平成六年七月三一日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 影浦直人)

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